また来年vv
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


クリスマスはそうでもなかったものが、
明けた途端に、半端ない寒波が襲い来て。
日本海側を中心に、
12月にはまだ早い級の積雪を記録した地が多かったそうで。
いわゆる年末寒波かと思いきや、
大みそかにかけては穏やかなんだとかで。

  どんだけ人を振り回すかあんたっ
  (ちょっとそこへお座りっ!)




洗濯物の乾き具合が
日々の一番に気になるお年頃なおばさんはともかくとして。(うう…)
この時期に一番の関心事は、何と言っても空気の乾燥、
お洗濯には興味はないけど、
肌や唇や髪への影響が多大だもの、
そりゃあ無視なんて出来ないというお年頃

  ……の筈なんですが。

そんな乾燥しきりの寒風吹きすさぶ郊外地の石切り場。
さすがに師走の30日ほども押し詰まると、
鑿岩作業も休みとなっているようで。
切り立った崖のようになった切り出し跡地にぐるりを囲まれた、
見るからに殺風景な風景は、
戦隊ものなんかの活劇シーンでお馴染みじゃああるが、
実際に足を運ぶ機会となると、
そうそうはないもんじゃあなかろうか。

 「こんなとこ、よく知ってたなぁ。」
 「人目につきたくなかったんじゃね?」
 「まあ、そう簡単に抜けられると思われても困るけど。」

何せ、ネタはこっちが掴んでるんだしと、
中の一人がスマホを取り出し振って見せる。
数人がかりで掴みかかって無理からズボンを引き降ろし、
恥ずかしい写メを撮って、
脅しのネタにと振りかざして来た性分の悪さには、

 “まあ、よくある手じゃありますが。”

それがいつまでも通用すると思われちゃあ困りますしねと。
こそり、短いメールを発信すれば、

 「お?」
 「なに、メール?」

開けた一角にたむろしていた連中の一人が自分のスマホを見やったが、
そこに呼び出されたのは真っ黒な添付画像だけ。しかも、

 「…あれ? 奴の写メ、どこいった?」
 「おいおい、操作ミスか?」
 「▲▲のスマホにも保存してんだろ?」
 「うん…って、あれ? ねぇぞ?」
 「はぁあ? 何だ、それ。」

互いのスマホを見せ合う連中なのへ、

 “特別仕様のウィルスメールですよ。”

それも初歩も初歩、
ちゃんと基本の対策取ってりゃあ
異常は出ないレベルのだったんですのにねと。
あまりの呆気なさに苦笑が引かないひなげしさんなのは、
とっくに侵入も果たしての、
大元の写真データを既に解析済みだったから。
今後、どこへどんな形で流出させようとも、
再現不可能という対処しか出来ないよう、
特殊なブロックを今ので仕込んだわけで。
もしかして自宅のPCなんぞに元データがあっても
取り出したが最後、読み出せば同じ現象になるだけという恐ろしさ。

 『切っ掛けがしょむない妬みというのがね。』
 『うんうん、許せないよね。』

妹さんがそりゃあ愛らしくて、
気の強いのが“紹介しろよ”と執拗に迫ってたのが、
けどでも断られたってのが切っ掛けだってのがサ。
しかも何?
その妹さんにも嫌がらせを始めてるって?

 『…ウチの後輩が。』

そのお嬢さんだったようで。
覚えのないプロフを誰かが立ち上げてると
相談された久蔵だったのへ、
即日でそんな裏書を突き止めちゃったひなげしさんもおっかないが、

 “ネットを使う悪さへは、特に厳しいもんね、ヘイさん。”

どんなに恐ろしい刃となるかが判ってない馬鹿は
徹底的に伸してやるに限るというのが信条らしく。

 「くっそ、何だよこれっ。」
 「奴が何か仕掛けやがったんか?」
 「リベンジ上等じゃんか。俺らも黙ってねぇってよ。」

苛々と辺りを見回し始める連中なのへ、
ぽーんっという、妙に響きのいい電子音がどこからか届く。
時報にしては中途半端な時間だし、
見上げれば鉄塔の上に作業用だろうスピーカは見えるが、
休業中だ、稼働している筈がない。
何だどこだと見回す彼らへ、

 「◇◇くんなら来ないよ。」

そんな声がかかり、
すぐ傍らにあった、やや高みになっていた岩塊の上、
いつの間にか結構な近場にいた人物が、ふふんと不敵な笑みを浮かべる。

 「あんたたちが◇◇くんを脅迫してるってこと、
  今時だったら
  警察へ届ければ立派に逮捕されるだけのネタなんだからね。」

それを敢えて しないでいてくれているのへ、
感謝しないといけないって順番なんだよ、判ってる?と。
どうやらスキーウェアらしい
揃いのジャケットとパンツという防寒装備で身を固め、
右手へ構えていた長いめの警棒をぶんっと振って見せれば、

 「ああ"? なに、ワケ判んないこと言ってるのかな、あんた。」
 「俺らが誰に何したって?」
 「証拠もなしに勝手なこと言ってんじゃねぇよ、ごら。」

一丁前に凄んだ物言いを繰り出してみせるも、
たかだか高校生レベル、
しかも同級生しかいじったことがないと来ては、

 “話にならんな。”

声にも威容はないままだし、
チンピラにも価しない半端さなのへ、
七郎次も肩をすくめて呆れるばかり。
そんな彼女の心情になぞ気づきもせず、
ちょっとした壇上ぽいところに上がってた相手へと、
いいから降りて来いとばかり、
傍へ寄って取り囲みかかった面々だったのへ、

 「……っ。」

そんな無礼を許すものかいと、
崖のようになってた切り立った土手の上から、
ヒラリと飛び降りて来た、別の影一つ。

 「な…。」
 「何だ何だ?!」

二階屋の屋根くらいはあった高さから、
何のクッションもないところへの着地というのは、
本来とっても危険なことで。
スタントマンのお兄さんたちでもそれは慎重に、
指定がない限りは、
足からというより転げる格好で
受け身を取ってという安全策を取るのが普通。
そんな真実を知らない人からは、
そりゃあ簡単にやってのけているように見えるかもしれないが、
実をいや、全身のバネを柔軟に即妙に働かせ、
途轍もない衝撃を素早く散らしてしまえる、
一種の勘がずば抜けているからこそ可能な妙技なのであり。
しかもしかも、

 「うおっ!」

ただ飛び降りて来たのみならず、
そこから弾丸のように勢いよく突っ込んでゆく
すらりとした後ろ姿の凛々しさよ。
七郎次へ手を伸ばし掛けていた不届き者へ、
短いままの特殊警棒を薙ぎ払い、
脾腹をびしりっと打ち据えている早技の物凄さ。
丁度吹きつけて来た北風に、
その軽やかなくせっ毛を舞い上げられながらも、
果敢に烏合の衆のただ中へ飛び込んでった痩躯は勇ましかったし。
飛び降りた着地の足でそのままとーんっと踏み切っての
それは素早くて切れのいい突撃は、
鮮烈にして鋭としか言いようのない見事さで。

 『あ〜んなつまらない連中相手には、勿体なかったほどですよ。』

何しろ、
唐突な打撃へ痛い痛いと転げ回っているお仲間の様子に、
女ごときがと舐めることも出来ぬまま、

 「う…。」
 「何だよ…。」

むしろ及び腰になってしまっての
その場へ立ち尽くしているようなのだから、

 “やっぱり大したことはない連中だな、こりゃ。”

特殊集音マイクで拾った会話では、
何とも偉そうに恐持てぶった物言いをしていたようだけれど。
ちょいとぶたれただけで
骨が折れたと言わんばかりののたうちようではねと。
こちとらモノホンの恐持てとも対峙した経験者たちですから、
そこは拍子抜けもしちゃうというところ。

 「…。」

そんな心証は、ちょっと遠くから観察中の平八のみならず、
間近で対面中の七郎次や久蔵にも ひしひしと伝わっているようで。

 「…おい。」

こちらも七郎次と同じくスキーウェアで身を固めた紅ばら様。
ぶんっと利き手を斜め下へと勢いよく振り抜いて、
その手に握っていた特殊警棒をそれは派手な手際で引き伸ばすと。
つつつっと持ち上げた切っ先をちんぴら高校生たちへと差し向け、

 「ここで全員薙ぎ払ってもいいんだぞ?」

よくよく見れば、
脱色系の茶髪どころか、けぶるような金髪の
途轍もない美人だというのに、
眉一つ動かぬ、凍ったような無表情。
声も単調で、居丈高ではないけれど、
だからこそ空威張りかどうかも読めない分、
却って底知れなくて不気味な印象しか届かない。
どこからともなく飛び降りて来て、
あっと言う間に一人を吹っ飛ばし、平然としている女子というだけでも、
彼らには十分 薄気味が悪かったようで。

 「お前からか?」

警棒の切っ先を差し向けられた一人が ううと呻いて後ずさり。
次にと隣りの顔を指し示せば、
やはりたじろいで逃げ腰になるばかりとあって。

 「そんな程度の覚悟で人を貶めようとは
  一体どういう心得違いをしていたやらですわね。」

こちらは嘲笑たたえた、小意地の悪いお顔になって、
七郎次が突き放すような口調で言い放ち、

 「最初にも言いましたが、
  ◇◇くんはここには来ない。
  あんたたちを呼び出したのが彼じゃあないからで、
  詰まらないわ下らないわな嫌がらせを辞めないようなら、
  あたしらが黙ってないよと言いたかったんだな。」

自分のスマホを掲げて、とんっと画面をタップすれば、
どんな準備がされたあったのやら、
対峙中の連中のスマホが同時に鳴り響き、
何だ何だと各自が液晶を見やれば、

 「え…。」
 「げ…っ。」

先程 久蔵が突っ込んで、
一人は あっさりと叩きのめされたし、
残りはひええっと滑稽なポーズで飛びのいた…という、
何とも無様だった一幕の、
どれが誰というお顔も鮮明に収録された映像が
エンドレスで展開されている。

 「素手の女の子に何をビクビクしてますかね、ウケるー♪」

あっはーっと、わざと蓮っ葉に笑って見せて、
だが、そのまま すっと視線を鋭く据わらせると、

 「冗談ごとじゃあないんだからね。
  あんたらを此処へ呼び立てたとっからアタシらの手筈。
  今の今、スマホに起きたその怪現象もそう。
  今ンとこはあんたらの手元止まりのそのネタ、
  他へ他って広めるのは簡単なんだよ、判るよねぇ?」

脅すような凄みはしなかったが、
むしろ その淡々とした物言いが、嘘寒く感じられ。
彼女の言うとおり、今の今 目にしたばかりの怪現象、
スマホへこんな裏技を使えるような相手では、
自分たちでは到底 歯が立つはずもないと、
あっさり認めたところは可愛いもんだったかもで。

 「口先だけと思うなよ。
  情報を流すだけじゃなく、この子が見せたよな一瞬の早技で、
  毎日のようにお仕置きをしに行ってもいいんだ、こっちはサ。」

 「ひ…っ。」

言うだけ言って、ではさらばと、
壇上岩からひょいと飛び降り、
美少女が二人、北風の中へと去ってゆく。
何とも珍妙な対峙だったが、
奇妙な乱入者らを見送った彼らが、
何かしらを告げ合いかかったそれに先んじて、

  ぱきり、と

妙に甲高い、だが堅い音がして。
はっとした皆が見やった先程の二人が立ってた岩くれを見やったならば。
岩がぱかりと割れたから恐ろしい。
最後の最後まで、大人しくはしてらんなかっらお嬢様たちで。
ふふふ、くすくすと楽しげに、
してやったりとの苦笑失笑を軽やかにこぼしつつ、
さあ、新しい年がくるのを待つばかりですわねと、
頷き合ってから、

 「さあ、帰ったらスキンケアとヘアケアですわ。」
 「そうそう、随分と砂埃に撒かれましたものね。」
 「ああこらこら、久蔵殿。唇を噛まない。」

あっと言う間に今時の女子高生に戻るのは、
それもまた柔軟性のなせる業か。
年の瀬ギリギリまで、すったもんだがついて回るお嬢さんたちだが、
保護者の皆様、どうか穏便に。





     〜Fine〜  13.12.30.


  *何ともバタバタしていたこの一年でしたが、
   お付き合い下さってありがとうございました。
   諸事情から年頭のご挨拶は出来ませんが、
   皆様によい年が訪れますように。

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